| ○バチ(蜂)当たり!! |
| 今思うと、よくよく馬鹿な事をしたな、と思う。 我が家の近所でも、そろそろ「稲刈り」が始まった。 実は、初夏、田植えが終わってから一度も田んぼに顔を出していない。 我が家の田んぼは、3方が山に囲まれた、ドンズマリにある。 このため、草刈をしなくとも、誰に迷惑をかけるわけでもない。 久々に稲刈りの準備のため、草刈り機を持って、田んぼに出かけた。 「天の恵み」である。 今年の暑さは、3方山に囲まれた、日照時間の短い、冷や水の入る、我が田んぼにとっては、好条件を与えてくれた。一面、黄金色に色づいた田んぼを見てホッとした。 さぁ、伸びた草を刈らねばならない。 一時間程、順調に作業は進んだ。 片側が杉林の通路に草刈り機をいれて,しばらくすると、2,3匹の「赤蜂」が、回りを飛び回っているのが目に入った。 この辺りで通称「赤蜂」と呼んでいるのは「コガタスズメバチ」の事である。 この蜂は、とても芸術的な巣をつくるので有名である。 飛び回っている蜂が気になり、エンジンを止めて、杉林側の斜面を覗き込んだ。 どうやら草刈機の歯で巣の周りを、突付いてしまったらしい。 径が30cm程の穴の中、大きな巣が作られている。 実際に、刺された経験のない私は、ブンブン羽音を響かせて飛び回っている、数十匹ではきかない蜂よりも、その芸術的な「巣」に見惚れていた。 馬鹿である! 遅かった! どれだけの数の蜂が、襲いかかってきたのか、私には分らない。 集中的に、頭を狙われた。 愚の骨頂である。 襲いかかる蜂を追い払おうと、被っていた帽子を取って振り回した。 「黒いもの」「動くもの」が標的である。 「キャー、逃げて!」の女房の声が聞こえる。 草刈り機を背負ったまま、帽子を振り回しながら逃げた。 後頭部がズキズキし痛みが走る。 右手を見ると、半袖のシャツと手差しの間に一匹、張り付いている。 どれだけの蜂が頭の周辺にいるのか分らず、手に張り付いている蜂を追い払う余裕がない。 100m程離れたところに停めてある軽トラックの所まで、夢中で逃げた。 後頭部のズキズキした傷みがますますひどくなる。右、二の腕の痛みもそれに加わる。 「大丈夫?」 「吐き気は?」 「寒気は?」 矢継ぎ早やに、女房が聞いてくる。どうやら私の顔は真っ青らしい。 女房がハンドルを握り、近くの病院まで車を走らせた。思ったほど刺された箇所の腫れはひどくない。 車の中、女房は興奮した口調で話す。 頭の周辺の一塊の蜂の群れを見たときにはどうなる事かと、思ったと。 自分の馬鹿さ加減にいい加減呆れていた私は、ただ「大丈夫、大丈夫。」と繰り返すしかなかった。 血圧を測り、聴診器を当て、先生が一言。 「ひどい場合には、顔面蒼白になり、血圧が下がり、全身に震えが走り、その場で卒倒することがあります。死にいたる事がありますので気をつけて下さい。」 ステロイド系の注射をうってもらった。 半日、横になった後、パソコンに向かってこの文章を書いている。まだ頭のズキズキした痛みは取れない。二の腕も、大分熱を持っている。 帰り道、「バチが当たったのよ!」と女房が言う。 バチが当たるようなことをした覚えはない。 厄年のせいだろうか? |
| ○山分け |
| 今年も間もなく山分けの時期がやってくる。 「愛林組合」という組織がある。 今でも山あいの部落には残っていると思う。 山仕事と畑仕事が主だった頃は、愛林組合として営林署からどれだけの仕事を取ってくるかが、収入を大きく左右したらしい。 立ち木を伐採・搬出し、薪炭やパルプにして利益を得、切り出した裸山に杉や桧を植え、利益を得る。 植林した山では、下刈り・除伐・間伐をして利益を得る。 農閑期、この山仕事をする事によってこの山あいの部落は生き残ってきた。 一昔前はどの家の主でも、チェーンソーを扱い、伐採・搬出ができたのだそうだ。 この「愛林組合」は、今では、ほとんど名ばかりのものになってしまったが、それでも、年に一度、営林署から払い下げられた国有林を巡って、誰が仕事を取るかで「山分け」と呼ばれる集まりが催される。 早朝一番に、今回払い下げになる、国有林の入り口に部落内の組合員が集まる。 その場で組合長から今回の対象となる立ち木の種類や石数、払い下げられた値段が発表される。 営林署から払い下げられた立ち木の額は原価である。 立ち木の種類や石数を計算し、伐採・搬出して自分の利益を考えこの「山」を競り落とすのである。 山を見に行った方たちが戻る時間を考慮して、部落の集会所でこの「特売山(とくばいやま)」を巡って、酒を挟んで 「セリ」が始る。「お祭り」の始まりである。 往時は、昼に始ったこの「セリ」が深夜まで続いた事も珍しい事ではなかったらしい。 何しろ酒が入った「セリ」である。 加えて競り落とされる金額が高ければ高いほど、組合員にも配当として幾ばくかの金が転がり込むのである。 営林署から払い下げられた金額と、組合の運営費を引いた金額が組合員の配当となるのである。 「この配当だけで半年は食えた。」と豪語する70過ぎの年寄りもいるくらいだ。 「山分け」の語源はここにあるのかも知れない。 利益を考え、この位の金額ならと「セリ」に参加した人たちも、酒の勢いと周りの煽てに正気を失い、いつの間にか、思わぬ金額まで競りあがっていた事も珍しい事ではなかったらしい。 今では、山はそれほどの利益を生まなくなった。 それでもこの「セリ」は一種独特の雰囲気と熱気を持つ。 初めてこの「セリ」の場に座った時は、自分が「セリ」に参加しているわけでもないのに、異常に興奮した事を覚えている。 今、「自然」が大きく見直されようとしている。 多くの「山」には広葉樹等の雑木がなくなろうとしている。 えいえいと営まれてきたこの「山分け」も多くの雑木を犠牲にしてきた。残ったのは造林された、杉や桧の山だけだ。今、その中で生活している我々も何とか考えねばならない時期がきている。 |
| ○やけくそ |
| 冗談ではなく本当に「やけくそ」になるところだった。 今期のトマトの後片付けは、何かと野暮用が多く中々進まない。 野暮用などといったら怒られるかも知れないが、冠婚葬祭に加え、小学校の用事が多く、気がついたらもうすぐそこに正月が迫っている。 毎年お世話になる、養豚農家の荒川さんのところから、堆肥を運ぶのが押し詰まって今日になってしまった。 朝一番から、ローダーとダンプ2台を借り、せっせと女房と二人堆肥を運び上げる。運び上げるダンプは、塵芥車と呼ばれる2トンダンプだ。都会ではほとんど姿を見ることは無いかもしれないが、ちょっと田舎をドライブすると見ることができると思う。 私の住む「片貝」は標高550mの高地である。 荒川さんのところからは距離にして15Km、高さにして400mもの違いがある。積んだ堆肥は山道を登り続けて我が畑まで辿り着く。 いつもは養豚場の回りしか動かしていないダンプのため、片道20分以上も山道を登りつづけることはめったに無い。 堆肥を積み込んで女房と2台連ねて畑に着いた。 車を降り、どの辺りに下ろすか決め、いざ下ろそうと、車に戻りかけると、私が運転していたダンプから、もうもうとけむりが立ち上っているのである。 荷台と運転席の間、ちょうどエンジン部分から煙が上がっている。 オーバーヒートでもしたのかと、覗き込むと、メラメラと20cm程炎が上がっているではないか、 一緒に覗き込んでいた女房が「爆発するーー。」 といってのけぞった。 ちょっと、大げさだとは思ったが、炎が上がっているのを見て、私も気が動転した。 煙だけならともかく、火が上がっている。 とにかく火を消さなければならない。 山道を駆け下り、鶏小屋近くの池からバケツに水を汲んで、はあはあ息を切らしながら、戻って水を掛ける。 2,3回ほど往復し、ようやく立ち上っていた炎が消えた。 まだもうもうと煙は立ち上っているが、どうやら原因は排気管の上に堪った堆肥に火がついたらしい。 ここのところ、ほとんど雨らしい雨も無く乾燥しきっている。加えて、長時間の山登りで、だいぶ熱を持ったらしい。 ほんの小さな「やけくそ」事件でホッとした。 冗談ではなく本当に「やけくそ」になるかもしれなかったのだから・・・。 |
| ○父母との同居(介護V) |
| 厳しかった冬も、間もなく暖かな春と忙しい仕事に取って変わる。 年が明けると共に、頑固じいさんが逝った。 その晩から振り続いた雪は、ここ片貝にも、65年ぶりという大雪をもたらした。例年「寒締め野菜」のために2棟ばかりのトマトハウスを残す。60cmを越す積雪は見事にそのうちの1棟を潰した。 葬儀の準備に追われる中、女房とふたり、せっせと雪降ろしに励んだが、徒労に終わった。 ここに来て初めての年、農機具の扱いは全て頑固じいさんに教わった。 なたや鎌、刃物を研がせれば天下一品だった。 酒をこよなく愛したじいさんだった。 その年の秋、朝食時、じいさんの箸は、空いた皿の模様を突つく。ご飯を挟んだ箸が上手に口に運べない。 それから約5年、病院と施設と我が家の間を行き来した。 葬儀の日、みんなは、愛情を込めてこう言う。 「あのじいさんめ、最後まで面倒を掛けやがる。とんだじいさんだ。」 今日始めて、雪の中から、ふきのとうを採った。 春が来る。 間もなく仕事が始まる。 潰れてしまったハウスの撤去からだ。 今年は、マイナスからの出発だ。 頑固じいさんの悪口でも言いながら仕事をしよう! 田舎家には、暗黙のしきたりがある。 今は、囲炉裏から炬燵にとって変わってしまったが、大黒柱を背負う上座(かみざ)には、その家の主が座る。 頑固じいさんが居た頃は、当たり前のように主であるじいさんが座った。 私は未だ、この席には座れない。 |
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